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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)8260号 判決 1964年3月31日

原告 株式会社 伴野物産 外一名

被告 国

訴訟代理人 武藤英一 外四名

主文

原告らの請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

原告らは別紙目録記載の物件は訴外交易営団が昭和一九年七月二一日付軍需次官通牒「ダイヤモンド買上実施要綱」に基き福沢仲治外多数の者から買受けてその所有者となり所持していたものであるが、昭和二〇年一〇月から翌二三年一二月までの間に連合国占領軍に全部接収され、昭和二六年連合国最高司令部が日本政府にその現物保管を移譲し、翌二七年四月五日平和条約の発効に伴つて接収を解除せられたものであるから、国はこれを接収時の占有者である営団に返還すべきである旨主張する。しかし、仮にその主張の物件全部がその主張のとおり占領軍に接収され現に国において保管するものであるとしても、その所有権は接収貴金属等の処理に関する法律(以下単に処理法という。)第二〇条第五項により国庫に帰属するものといわざるを得ない。

原告らは右法律が憲法第二九条に違反し無効であると主張するが、次の理由により採用することができない。

交易営団法によれば、交易営団(以下単に営団という。)は第二次世界大戦中国家経済総力の増強を図るため交易の統制運営をするとともに重要物資の貯蔵を確保、増強し、貯蔵重要物資の利用を有効且適切ならしめる目的で設立せられ、右目的達成のため政府の定めた計画に従いその監督下に重要物資の保有、買入及び売渡等の業務を遂行するものであり、その資本金の六分の五は政府の出資による特殊法人であつて法人格を備えているが、その実体は国家の代行機関ともいうべきものである。ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、軍需省は航空機、電波兵器等の生産上不可欠の資材であるダイヤモンド確保のため前記「ダイヤモンド買上実施要綱」(以下単に買上要綱という。)を定め国内の装飾用ダイヤモンドを買上げて前示兵器等の生産資材に充てることとしたこと及び営団は同要綱に基く買上げ実施機関に指定され横浜正金銀行からの借入金により一般人及び販売業者から任意供出を求め、ダイヤモンド買上標準価格をもつて多量のダイヤモンドを買上げたが、その処分方法は買上要綱により軍需省の指示に従い買上価格に手数料及び代行機関に支払つた危険負担金を加算した金額で処分することを義務づけられており、自己の利益のためにダイヤモンドを保有し、任意に処分して営団にその利益を帰属せしめることは許されず、買上手数料を得るほかダイヤモンドの附属装飾品中金、銀、白金地金以外のものを保有し得るにすぎなかつたものであるところ、殆んどの買上げダイヤモンドは軍需省の指示による処分前に終戦となつたためそのまま営団の所持するところとなり、営団から占領軍に接収せられたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。かように、営団の買上にかかるダイヤモンドは当初より買上価格に一定の手数料及び危険負担金を加えた価格で政府に売渡されることになつていたものであるから、処理法が、営団からダイヤモンド等の貴金属の所有権を国庫に帰属せしめ、同時に営団に対し営団の買上価格及び買上手数料の合計額に相当するものとして政令で定める基準により算出した金額を交付する旨規定したことは、終戦によつてその軍需目的を失い軍需省の指示による処分が行われず占領軍の接収によつて一時処分不態の状態にあつたダイヤモンド等の貴金属につきその処分方法を明らかにしたものと解される。

右に述べたように営団のダイヤモンド等の貴金属所有権は取得当時よりその処分につき制限を受けていたものであり、処理法はその制限を超えて営団の所有権を侵害するものではないから、本来権利者において何らの制限も受けず自由に処分できる財産権を侵害する場合と異り憲法第二九条第一項の保障する財産権のらち外にある。それ故処理法第二一条の交付金は憲法第二九条第三項の「公共のために用いる」場合の「正当な補償」として論ずるを得ず、原告らの憲法違反の主張は採用できない。

以上の次第で、原告ら主張の物件の所有権は国庫に帰属するものであるからその所有権確認並びに所有権に基く引渡を求める本訴請求は理由がないことは明らかである。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 池野仁二 石田実 吉田欣子)

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